国民には健康づくりを、会社には予防を、労災保険には補償を、医療保険には治療へのアクセスを。
国民の「健康」は、けっこう国が考えてくれている。
決まった時期に会社で健康診断を受ける。
異常が見つかれば病院へ行って治療、場合によっては手術や入院だ。
窓口では保険証を使い、残りの費用は保険料と公費が支える。
また、定期的に自治体から、がん検診や健康教室の案内が届く。
そう、もはやあたりまえの風景だ。
私たちはこれを、ひとまとめに「日本の医療制度」と呼びがちだ。しかしこれらを理念的に、もしくは財政的に支えている法律は、けっこう複雑だ。そこには別々の目的、別々の実施主体、別々の財布がある。
健康増進法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、健康保険法、国民健康保険法。これらは一見「医療、健康、予防、補償、保健、保険」おなじような大義・正義に見えても、中央省庁や都道県庁内部では、まったく別の部局、まったく別の組織であったりする。予算もだ。
代表的な法律

【健康増進法】
主語:国民・国・自治体・健康増進事業実施者
生活習慣、栄養、調査、健康づくりの環境を整える。病気になる前を広く扱う。
【労働安全衛生法】
主語:事業者・労働者
仕事に伴う危険と健康障害を防ぎ、職場で健康を確保する。定期健康診断は事業者の義務。ストレスチェックも事業者の義務だ。
【健康保険法】
主語:被用者保険の保険者・被保険者
業務外の病気やけが等に保険給付を行い、働く人と家族の生活を支える。
【国民健康保険法】
主語:市町村・国保組合・被保険者
被用者保険などに入らない住民を中心に医療保険を担い、社会保障と国民保健に寄与する。
【労働者災害補償保険法(労災保険法)】
主語:政府・事業主・被災労働者
業務災害、複数業務要因災害、通勤災害について、治療だけでなく休業・障害・遺族・介護などを補償する。
健康増進法が描くのは「国民全体の健康をどう底上げするか」だ。
国からすると、国民には健康であってほしいのだ。何のために? 医療費? ウェルビーイング? まあ、そういうことだろう。
健康日本21(第三次)は、健康寿命の延伸と健康格差の縮小に加え、個人の行動だけでなく社会環境の質、さらにライフコース全体を視野に入れる。
労働安全衛生法は、場所を職場に絞る。健康診断はそもそも福利厚生ではない。事業者が義務として実施し、従業員も義務として受診しなければならない。何のためか?
職場において、予防を越えて業務・通勤による負傷や疾病が発生したとき、労災保険法が補償を担う。安衛法は「起こさないための法律」、労災保険法は「起きた後を支える法律」と整理できる。
整理すると、こういうことだ。
健康をつくる(健康増進法・地域と生活環境)
↓
職場で見つける(労働安全衛生法・健診と事後措置)
↓
労災を補償する(労災保険法・療養、休業、障害等)
↓
一般傷病を支える(健康保険法・国民健康保険法)
↓
費用として現れる(国民医療費+医療費外の労災給付)

48兆円。
・令和5(2023)年度の国民医療費:48兆915億円
・前年度比:3.0%増
・人口1人当たり:38万6,700円
・GDP比:8.08%
最新の確定値である令和5年度の国民医療費は48兆915億円。財源は保険料50.2%、公費37.5%、その他12.3%で、患者負担は再掲で11.8%だった。
ご存じの方も多いと思うが、医療支出は「患者が窓口で払った額」ではない。
・現役世代の保険料
・事業主の保険料
・税
・本人負担
これら合計で賄われている。
医療費支出自体が悪いわけではない。医療へのアクセスが保障され、治療が届いた証拠である。
労災と医療費、社会的コスト
労働災害が一件起きると、発生するのは治療費だけではない。本人の賃金喪失、代替要員、現場停止、調査と再発防止、後遺障害、家族の介護負担、死亡時の遺族の生活まで影響が連鎖する。
労災保険はその一部を、療養、休業、障害、遺族、介護などの給付で支える。
【一件の労災から広がるコスト】
・治療・療養:診療、薬剤、看護
・所得・生活:休業、介護、遺族
・企業・職場:停止、代替要員、調査、再発防止
・長期的影響:障害、離職、生産性低下
職場における労災、傷病を予防する意味はここにあるのだろう。。
昨今健康経営なる用語が使われるが、実務的には労働安全衛生の延長のハナシのはずだ。
総論賛成、各論(各データ)バラバラ
地域には健康増進計画があり、職場には定期健康診断があり、保険者には特定健診とデータヘルスがあり、医療機関には診療情報がある。
ものすごい「健康」関連活動ではないか。
でも、これら「健康増進」「予防」活動は、効果的に行われているだろうか?
活動した結果は、だれがどういうデータで検証をしているのだろうか?
健康診断の再検査の受診率は、どれくらいだろうか?
健康増進プログラムの効果はどれくらいなのだろうか?
本サイトがフォローしてゆきたいこと。
1.健康診断データ、どこに行った?
素朴な疑問だ。膨大な数の健康診断結果を、いったい今誰が持っているのか? 少なくとも労働人口6000万人くらいの健康診断結果を、政府が網羅的に捉えているのだろうか?
2.不健康だったら? 誰が悪い? 自己責任? 会社責任?
不健康で何が悪い? と悪びれるひとにどうやって対応してゆくのか?
3.医療費削減だけが、ゴールなのか?
健康であればあるほど医療費支出は抑えられる・・ハズ。
本当にそうなるだろうか? どのデータを追いかければ、そういう事実が積み上がるだろうか?
でも、こころの健康、からだの健康度合いは、医療費だけで計れるのだろうか?
ヘルスケアテクノロジーは、こころの健康とからだの健康や、ユニバーサルヘルスカバレッジにどこまで
貢献できるのだろうか?
そんなことを考えてゆきたいと思っています。
■ 出典・参考資料
・e-Gov法令検索「健康増進法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103
・e-Gov法令検索「健康保険法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
・e-Gov法令検索「国民健康保険法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000192
・e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
・e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000050
・厚生労働省「労災補償」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/pamphletfaq.html
・厚生労働省 e-ヘルスネット「健康日本21(第三次)」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/policy/21_3rd.html
・厚生労働省「特定健診・特定保健指導について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.html
・厚生労働省「定期健康診断等及び特定健康診査等の実施に係る事業者と保険者の連携・協力事項について」
https://www.mhlw.go.jp/content/001706457.pdf
・厚生労働省「令和5(2023)年度 国民医療費の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/23/index.html
・厚生労働省「令和5年度 医療費の動向」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43263.html
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