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数値にならない「こころの事故」を、どう数えるか?

(生成AI活用記事)

労働安全衛生法は、落下事故や交通災害や健康診断だけを扱っているわけではない。

2015年の労働安全衛生法改正によりストレスチェック制度が施行されてから10年。

この間、「こころ」に起因する事故や事件は、減ったのだろうか? 増え続けているのだろうか?

 

MENTAL HEALTH × STATISTICS

数値にならない
「こころの事故」を、
どう数えるか?

うつ、適応障害、パニック障害、自殺、過労。血圧や血糖値のような一つの物差しでは測れないからこそ、複数の統計を重ねて読む必要があります。

健康診断は、血圧、血糖、肝機能、BMIなどを同じ単位で繰り返し測れます。一方、こころの不調は、本人の自覚、医療機関の診断、会社での休業、労災請求、そして自殺統計という、異なる入口から別々に記録されます。

つまり「メンタルヘルスは数値化できない」のではありません。正確には、数値が複数の制度に分散し、分母も定義も揃っていないのです。

この記事の結論:患者数、休業者数、労災認定件数、自殺者数を一本の連続した数字として扱ってはいけません。それぞれが、こころの不調の異なる断面を映しています。

見えにくい不調は、4つの統計に分かれる

LAYER 01本人のストレス質問票への自己回答。診断や休業とは一致しない。
LAYER 02休業・退職会社が把握できた就業上の結果。受診前・未受診も含み得る。
LAYER 03受診・診断医療統計。医療につながっていない人は表れない。
LAYER 04労災・自殺認定基準や警察統計による行政記録。最も重い結果の一部。

まず押さえたい、6つの数字

強い不安・悩み・ストレスを感じる労働者67.5%令和7年 労働安全衛生調査
1か月以上の休業者または退職者がいた事業所13.5%過去1年間・常用労働者10人以上の民営事業所
精神障害に関する労災請求4,958件令和7年度・前年度比1,178件増
精神障害の労災支給決定1,082件令和7年度・うち自殺未遂を含む自殺76件

出典:厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)」「令和7年度 過労死等の労災補償状況」、警察庁自殺統計原票データを基に厚生労働省作成「令和7年中における自殺の状況」。

強いストレスは、働く人の約3人に2人

令和7年の労働安全衛生調査では、仕事や職業生活について「強い不安、悩み、ストレス」と感じる事柄がある労働者は67.5%でした。強いストレスがある人に内容を尋ねると、「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」がともに39.5%、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が32.9%でした。

強いストレスの内容〈複数回答〉

仕事の量
39.5%
仕事の失敗・責任
39.5%
対人関係・ハラスメント
32.9%

棒の最大値を50%として表示。割合の分母は「強いストレスと感じる事柄がある労働者」。

ただし、ストレスがあることと、精神疾患の診断を受けることは同じではありません。ストレス統計は早期警戒に適していますが、「うつ病が何人いるか」を示す統計ではありません。

休業・退職は、職場に現れた「結果」

過去1年間に、メンタルヘルス不調で連続1か月以上休業した労働者、または退職した労働者がいた事業所は13.5%でした。内訳は、休業者がいた事業所10.8%、退職者がいた事業所6.5%です。

労働者を分母にすると、1か月以上の休業者は0.6%、退職者は0.2%です。事業所割合と労働者割合は意味が異なります。大企業ほど「少なくとも1人いた」割合が高くなるため、企業規模を無視した単純比較はできません。

事業所の13.5%
少なくとも1人いた会社側の割合
≠
労働者の0.6%
1か月以上休業した人の割合
≠
患者数
医療機関で診断・治療された人

うつ、適応障害、パニック障害は、なぜ個別に数えにくい?

医療統計では、診断はICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)に基づいて整理されます。しかし、公表される概況表では細かな診断名が大きな分類に束ねられることがあります。そのため、ニュース記事で「適応障害は全国で何人」「パニック障害は何人」と単純に示すのは容易ではありません。

テーマ主に現れる統計分類読めること読めないこと・注意点
うつ病「気分[感情]障害」等医療機関で受療した患者の規模職場が原因か、未受診者が何人いるかは分からない
適応障害「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」等ストレス関連疾患群の受療状況概況表では適応障害だけを独立表示しない場合がある
パニック障害同じく神経症性・ストレス関連の分類群関連疾患群としての医療需要パニック障害単独の全国値として読めない場合がある
自殺警察庁自殺統計・人口動態統計死亡という結果と、把握された原因・動機一つの原因に還元できない。診断の有無とも一致しない
過労過労死等の労災補償状況請求件数、認定件数、出来事、業種・職種請求されなかった事案、認定基準を満たさない不調は含まれない

患者調査は「有病者総数」ではない

令和5年患者調査では、調査日に受療した推計患者数は「精神及び行動の障害」で入院21万3,100人、外来24万4,600人でした。このうち「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」は入院2万6,600人、外来7万6,800人です。

これは1年間に病気になった人数でも、生涯に一度でも症状があった人数でもありません。調査日に全国の医療施設で受療した患者の推計です。数値を「日本のうつ病患者は7万6,800人」と言い換えるのは誤りです。

精神障害の労災請求は、4年間で大きく増えた

業務による強い心理的負荷が原因とされる精神障害について、労災請求は令和4年度の2,683件から令和7年度の4,958件へ増加しました。支給決定も710件から1,082件へ増えています。

精神障害の労災補償状況

令和4年度・請求
2,683
令和5年度・請求
3,575
令和6年度・請求
3,780
令和7年度・請求
4,958
令和4年度・支給決定
710
令和5年度・支給決定
883
令和6年度・支給決定
1,056
令和7年度・支給決定
1,082
請求件数支給決定件数

各年度の支給決定には、前年度以前に請求された事案を含むため、「同年度の請求に対する認定率」として割り算することはできません。

令和7年度の支給決定事案で多かった出来事は、「上司等から身体的・精神的攻撃などのパワーハラスメントを受けた」222件、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」127件、「セクシュアルハラスメントを受けた」127件、「仕事内容・仕事量の大きな変化」113件でした。

ここから読み取れるのは、精神障害の労災を「長時間労働だけの問題」と見るのは不十分だということです。ハラスメント、顧客対応、急激な役割変化など、時間では測りにくい心理的負荷が大きな位置を占めています。

自殺統計は「勤務問題=原因」と断定しない

令和7年の自殺者数は19,188人で、前年から1,132人減少しました。原因・動機の「勤務問題」は2,390件でした。ただし、原因・動機は遺書、生前の言動、家族等の証言などから把握され、1人につき最大4項目まで計上されます。

自殺は、多様で複合的な背景が連鎖する中で生じます。「勤務問題2,390件」をそのまま「仕事が唯一の原因だった2,390人」と読み替えてはいけません。反対に、原因・動機が十分に特定されなかった事案もあります。

重要な読み方:自殺統計は「責任の所在を一つに決める数字」ではなく、予防すべき背景を複数拾い上げる統計です。

企業が持つべきは、診断名の台帳ではない

会社が社員の病名を大量に集めれば、メンタルヘルスを管理できるわけではありません。診断情報は特に慎重な取扱いが必要です。企業が見るべきなのは、個人の秘密を暴くデータではなく、職場環境を改善するための集団的な兆候です。

会社が継続的に見る4つの指標

01|休業と復職1か月以上の休業者数、復職率、再休業、退職。個人を特定しない集計を基本にする。
02|仕事の変化長時間労働だけでなく、配置転換、責任増、要員減、顧客からの迷惑行為も記録する。
03|相談への到達窓口の設置数ではなく、相談しやすさ、利用可能時間、外部相談への到達経路を見る。
04|集団分析と改善ストレスチェックを個人判定で終わらせず、部署単位の分析と職場改善につなげる。

フィジカルの健康診断が「数値の異常」を発見する仕組みだとすれば、メンタルヘルス対策は「人と仕事の関係の異常」を早めに見つけ、環境を変える仕組みです。血圧のような一つの値はありません。しかし、休業、相談、異動、ハラスメント、労働時間、労災請求という複数の兆候を重ねれば、会社が見過ごしてきたリスクは可視化できます。

つらさを抱えている方へ

この記事は統計の解説であり、診断を行うものではありません。強いつらさや「消えてしまいたい」という気持ちがある場合は、一人で抱え込まず、医療機関や公的な相談窓口へつながってください。

厚生労働省「まもろうよ こころ」相談窓口一覧 →

主な出典・原資料